第42回読書会blue開催レポート
令和6年6月9日(日曜日)9:30~ 高志の国文学館 研修室103にて[読書会blue]第42回「箱男」開催しました。
課題本は安部公房の「箱男」
今年生誕100年かつ27年ぶり初の映画化も注目されている1冊です。
今回は「箱男」という特殊な設定から「見る・見られる」について感じたことやストーリーの展開について、更にはリアル箱男も現れるなど終始笑顔の絶えない充実した時間となりました。
読書会blueでは毎回課題本に関する小話を紹介しています。
今回は
・安部公房について
・「箱男」創作秘話
を紹介しました。
多彩な活動で知られている安部公房。箱男着想のきっかけは2人の浮浪者の新聞記事からでした。その後乞食に関する取材を進めるなかで偶然「箱男」に遭遇したことも小説の世界観を創るきっかけとなっています。安部公房は「箱男」について、人間関係を「見る・見られる」という視点からとらえてみる狙いがあり、「国家・社会からの離脱を極限まで追いつめてみたらどうなるのか」試みてみた、とも語っていることから文学の可能性を実験的に追求した小説ともいえます。ちなみに作品の中に出てくる写真は全て安部公房自身が撮影していますが、内容とは直接関係ありません。
参加者からの感想を紹介します。(ネタバレ多数/一部抜粋しています)
ころころ変わる展開に当初戸惑った方も皆さんの意見や考えに触れることで新しい視点や発見を得た方が多くいらっしゃいました。
・文庫版の解説を読んでから読み進めるとわかりやすかった
・箱男は見られることに脆弱
・カメラ撮影時の具体的な数値がやっている人なら分かる内容となっている
・箱男は誰だったのか?あえて分からないようにしている。作者も決めていないのでは
・物語の構図が奇抜
・SNS等の普及によって現代でも箱男の世界観に入っている
・昭和30~40年代の時代背景を感じる
・見る快感、見られる不快
・女性に名前があるのは見られる側にあるから。男性には名前がない(匿名性)
・ラストの救急車のサイレンは次回作のつながりでは?
・誰が主人公というよりそれぞれが主人公
・箱男が章で入れ替わっているのが本物偽物含めて舞台展開のよう
・見られるのが嫌という箱男の気持ちが分かる
・タイトルは「箱人間」でもいいのでは
・人間はどこかに帰属したい。それがたまにしんどくなる時がある
・箱男養成マニュアルだと思って読んだ
・箱=胎内。箱は落ち着く場所
・見る・見られるのエロチシズム
・箱に入ったら何をするかイメージした。箱に入ることは相当勇気が要ること、躊躇してしまう
・帰属社会、見られることで生きづらさを感じる
・演劇的な展開。各章タイトルが数字だったり方程式だったりするが答えがでない
・答えがでないと分かっていても人は答えを求めてしまう。著者の掌で踊らされている
・贋魚は安部公房の好きなイメージ
・どれが真実で嘘かわからない
・現実的じゃない、想像力のすごさ
・視点もいろいろ変わり、どれが真実で嘘かわからない。現実を忘れてしまうよう
・急に自身が箱を被らされたような場面展開
・箱と覗き窓では全て見えていない
・自分が何者でもない、匿名性であるが故の気持ちよさ
・見つかったときの脆弱性は一掃されうる者になるのを示唆しているのでは
・空気銃は箱の中でも使える武器。匿名性の担保か
・余白は生きていく上で大事なこと
・(箱男が)書く・書かれるが創作のテーマではないか。書いている人が強い印象
・箱男→作者の頭の中
・あえてどちらの会話かわからなくしている、差がない
・世界を意識して書いたのでは。メタフィクション。
・出版の翌年にオイルショックがあるなど時代の変わり目の影響もあるのでは
・これは夢の話。ラストの救急車で目が覚めた
・五感に関する描写が多い。人との社会の離脱を突き詰めていくと五感が研ぎ澄まされていく。人間を実感させられる
・箱の内側→内臓を眺めているような感じ
・箱男は胎内回帰しているのでは
ほかには
・ラストの救急車の意味
・当時の時代背景から見る文学について
など本の内容をさらに考察したり、安部公房と同じ時代に活躍した三島由紀夫についてなど多彩な話題が多く挙がりました。参加者の意見や考えを聞くことで自分では気づかなかった新たな気づきや発見を得ることができ、より本の世界を楽しむことができますね。
参加者の皆さん、ありがとうございました!!
次回は2024年8月25日(日)9:30~
課題本は大岡昇平の「野火」
皆さんの参加をお待ちしています。