雪国は最初から雪国じゃなかった話

平成29年3月4日(土曜日)

富山市の高志の国文学館にて

読書会blue第3回「雪国」を開催しました。

 

その際、主催者より

・雪国の舞台となった新潟県について

・現在の雪国の形になるまでの過程

をお話しさせていただきました。

 

特に、

現在の雪国の形になるまでの過程

は想像以上に深い内容となりました。

順に説明しますね。

・雪国の舞台となった新潟県について

雪国の舞台となったのは

新潟県南魚沼郡湯沢町。

上越新幹線「越後湯沢駅」のある町です。

県境に清水トンネルという

群馬と新潟をつなぐトンネルがあり、

群馬からトンネルを抜けると「雪国」でした。(現在清水トンネルは在来線上り専用トンネルのため、トンネル抜けても雪国ではありません。あしからず。)

川端康成は実際に

湯沢町を訪れて執筆しており、

彼が執筆した旅館の部屋は

現在も残されています。

ほかにも湯沢町の

湯沢町歴史民俗資料館には

ヒロインである駒子の部屋が

再現されていたり、

各名所に看板が設置されていたりと

雪国の世界が楽しめるよう

工夫されています。

 

 

・現在の雪国の形になるまでの過程

雪国は当初、複数の雑誌に断続的に

各章が連続して書き継がれたものでした。

雑誌に掲載されたタイトルは太字を参照。

わかりやすいように

新潮文庫版を参考にページ数振りました。(「雪国」川端康成著 新潮社のページ数です。出版年等によって前後あるかもしれません)

 

・夕景色の鏡
(新潮文庫p5~p20、10行目「友だちだと思ってるんだ。友だちにしときたいから、君は口説かないんだよ」まで

・白い朝の鏡
p20、11行目~p37、8行目「そして島村はその日東京に帰ったのだった」まで

・物語
p37、9行目~p47、2行目「雪に浮かぶ女の髪もあざやかな紫光りの黒を強めた」まで

・徒労
p47、3行目〜p83、9行目「またしても島村にとっては、現実というものとの別れ際の色であった」まで

・萱(かや)の花
p83、10行目〜p106、2行目「松虫鈴虫くつわ虫」まで

・火の枕  
p106、3行目〜p149、12行目「薄く雪をつけた杉林は…(中略)…地の雪に立った」まで

 

ここまで「雪国」という言葉が

一切ありません。

「雪国」というタイトルがついたのは

1937年。上記の断章をまとめ、

書き下ろしの新稿を加えた本が

出版される際に

「雪国」というタイトルがつきました。

さて、雪国といえば冒頭に

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」

という有名な一文がありますが、

当初掲載されたときは

この文章が最初ではなかったのは

ご存じでしょうか。

 

この言葉が最初にくるようになったのは

1937年、創元社から出版されたとき。

当初は

「濡れた髪を指でさはつた。ーその触感をなによりも覚えてゐる。その一つひとつがなまなましく思ひ出されると、島村は女に告げたくて、汽車に乗った旅であった。」から始まり、

10行ほど島村が

トンネルを抜けるまでの間

駒子のことを回想した後に、やっと

「国境のトンネルを抜けると

窓の外の夜の底が白くなった。」

と始まっていました。

 

「国境のトンネルを抜けると~…」

以前の文章は

単行本「雪国」を出版した際に

削除されています(文芸春秋1935年1月号より引用)

 

他に大きく削除された文章として

p17、7行目「そうでなければ、誰が年の暮れにこんな寒いところへ来るものか」

と8行目の間にも文章が入っていました。

20行ほどあるので一部紹介。

「それではこの男も、私をほんたうに知つてくれたのだつたが、それにひかれて遥々やつて来たのだつたが、どこを捜しても私のやうな女はさうゐないので忘れなかつたのかと、彼女はなんだか底寂しい喜びに誘いこまれた。…(中略)…女はふふと含み笑ひしながら、島村の掌を拡げて、その上に顔を押し当てた。」

駒子についての詳しい説明が入っています。(文芸春秋1935年1月号より引用)

 

1937年に単行本「雪国」が

出版されたのち、

さらに続編として以下の章が

雑誌に掲載されました。

こちらも新潮文庫を参考に

ページ数を振りますね。

 

・雪中火事
p149、13行目〜p162、15行目「石段の下では…(中略)…なお不安が増して走った」まで

・天の河
p162、16行目〜p179まで

・雪国抄(雪中火事の改稿)
・続雪国(天の河の改稿)

 

最終的な完成は1947年。

全ての章をまとめたものが

現在、私たちの知っている

「雪国」になります。

今回1937年出版の「雪国」や

県内にある当時の掲載雑誌などにも

目を通しました。

現在との違いを比較しながら

ここから名作が始まったのだなぁと思うと

非常に感慨深かったです。

次回の読書会blueは夏目漱石「坊ちゃん」です。

ご案内はこちら→http://erina-a.xyz/2017/03/10/bocchan/

皆様の参加、お待ちしています。

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