小話「ジキルとハイド」が生まれたワケ

平成30年10月7日(日曜日)9:30〜

高志の国文学館にて[読書会blue]第13回「ジキルとハイド」開催しました。

その際、主催者より課題本に関する小話を紹介させていただきました。

今回は

・著者スティーヴンソンについて

・ジキルとハイドを書くまでの要素

について話しさせていただきました。

 

著者:スティーヴンソンがどのような人物であったか、

課題本となった「ジキルとハイド」を書くまでの要素として

モデルとなった人物がいたこと、

アイディアが生まれたきっかけ、

当時の身分制度についても少し触れています。

順に紹介させていただきます。

 

・著者スティーヴンソンについて

スティーヴンソンはイギリス:エディンバラ出身。

著名な灯台建築技師の家に生まれますが、父の仕事を継ぐ気になれず弁護士の資格を取ったのちに文学の道に進みます。

肺結核のため度々転地保養を必要としていましたが、病弱にもかかわらず多作で、長編、短編、随筆、評論、旅行記、韻文など多分野に優れた作品を残しています。

1880年に連れ子のいるアメリカ人女性と結婚。(外国人でかつ連れ子のいる人との結婚は当時かなり珍しいことでした)

1888年療養のため帆船を購入して南太平洋を巡航。サモア諸島・ウポル島の風景と健康的な気候が気に入り、ここを永住の地と決めるが1894年12月3日、『ハーミストンのウィア』を未完のままに脳溢血(いっけつ)で急逝しました。

ウポル島でのスティーヴンソンは作家としての執筆はもちろん、弁護士の資格を生かして島の争いを調停するなどの仕事も行っており、島の人々からはトゥシタラ(語り部)と呼ばれるほど慕われていました。

ウポル島にはスティーヴンソンが住んでいた邸宅が博物館として残っており、墓碑に鎮魂歌が刻まれているなど彼の痕跡を感じることができます。

・ジキルとハイドを書くまでの要素

スティーヴンソンの文名を世界的に広めるきっかけとなった「ジキルとハイド」

こちらの作品ができるまでにはいくつかの要素がありました。

①スティーヴンソンが見た悪夢

執筆のきっかけはスティーヴンソンがうなされながら見た悪夢でした。

その内容は「薬のおかげで一つの人格から別の人格に変わる夢」

この夢から作品の着想を得ています。

当時薬を服用することで肉体的に変身するというのは斬新な発想であり、善悪の問題に深い関心を抱く当時の読者から大きな反響があったようです。

ほかにも幼少期から病弱で暗いテーマ(多重人格、殺人など)に関心があったこと、解離性障害に興味があり自身で患者を取材していたことも執筆のきっかけとなっています。

 

・出身地:エディンバラに伝わるウィリアム・ブロディの存在

ウィリアム・ブロディは高級家具師、職人組合の組合長、さらに市議会議員という顔を持ちながら夜間は盗みを働いていた18世紀の人物です。

スティーヴンソンは「ジキルとハイド」出版前にウィリアム・ブロディを主人公にした戯曲を詩人のウィリアム・ヘンリーとともに製作していました。(タイトルは「ブロディ組合長、もしくは二重生活」)スティーヴンソンがウィリアム・ブロディに関心を持っていたことがわかるエピソードです。

wikiで調べるとウィリアム・ブロディがジキルのモデルとなっているのです、が

実はジキル博士の邸宅はジョン・ハンターの邸宅がモデルとなっています。(彼がジキルとハイドのモデルとなっている説もあり)

ジョン・ハンターとはイギリスの解剖学者・外科医をしていた人物。

抗生物質もなく、出産は命がけ、衛生の概念さえなかった時代に科学的な手法で近代医学に貢献しました。

当時は宗教的に身体を切り刻まれる嫌悪感が大きかったため、実験のために遺体を解剖していたジョン・ハンターは異質に見えていたのでしょうね。

 

・当時のイギリスの身分格差

当時イギリスの階級は生まれたときから決められており、それを上方へ変えることは困難でした。

貴族は貴族、職人は職人というように分をわきまえて行動することが当然とされていた時代です。

国民の圧倒的多数が下層階級に属しており、庶民は生活するのに必死でした。

ジキルの屋敷とハイドの邸宅では周囲の雰囲気が違うように、旧市街と新市街の貧富の差が大きかったことも近代都市:ロンドンにおける二面性を象徴しています。

 

このことから「ジキルとハイド」を書く要素としては

・スティーヴンソンが見た「薬のおかげで一つの人格から別の人格に変わる悪夢」

・モデルとなったウィリアム・ブロディとジョン・ハンター

・当時のイギリスの貧富の差が大きかった

というエピソードや当時の時代背景があったことから生まれています。

 

長々となりましたが「ジキルとハイド」に関する小話を紹介させていただきました。

本の世界を楽しむのはもちろんですが、当時の時代背景や著者のきっかけなどに触れることで読書がさらに楽しめます。

本を楽しむあなたの読書がさらに豊かになるきっかけとなれば幸いです。

募集は終了していますがこちらもどうぞ。

次回は12月23日 9:30〜

課題本は武者小路実篤の「友情」です。

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