アルジャーノンの裏話を知ると今の3倍は面白くなる話

本の時代背景や作者について知ると読書はもっと豊かになる
〜あなたの読書を更に豊かに〜
読書会blueの新井です
平成29年6月24日9:30~
高志の国文学館にて読書会blue第5回「アルジャーノンに花束を」を開催しました。
その際に小話として
・著者であるダニエル・キイスについて
・「アルジャーノン」が出版された当時のアメリカの時代背景ついて
課題本に関係ある箇所を中心に
かいつまんで話をさせていただきました。
1950~1960年代のアメリカは
障害者への意識が
変わり始めた時代でもあり
精神科治療にも変化がみられた時代でも
あります。
アルジャーノンが出版された当時の時代背景や
ダニエル・キイスの思いを知ると
更にアルジャーノンの世界を楽しめますよ
※以下長文です。
アルジャーノンを読んだことある方推奨
・著者であるダニエル・キイスについて
17歳で就職、船員として働いたのちに
大学で心理学の学士号を取得しています。
心理テストの描写が詳しいのはここから
彼は大学の学費を稼ぐために
様々なアルバイトをしていました。
主人公:チャーリィがパン屋で働いているのも
自身のアルバイト経験を基にしています。
「アルジャーノンに花束を」
きっかけは学生時代のメモ
「もし人間の知能を人工的に高めることができたなら、いったいどうなるか」
というアイディアと
ダニエル・キイスが英語教師として
高校に赴任し、特殊学級を受け持った際の
生徒からの発言からきています。
「ここはバカクラスだって知ってるよ。…[中略]…もしいっしょうけいんめい勉強して、学期のおわりに頭がよくなったら、ふつうのクラスに入れてもらえる?ぼく、利口になりたい」
彼あるいは彼女の限界を意識して、もっと知能を高めたいと望んでいるとは、私は夢にも考えたことがなかった。 (引用:「アルジャーノン、チャーリィ、そして私」ダニエル・キイス著) |
この言葉が主人公:チャーリィ誕生のきっかけとなりました。(ちなみに第1稿タイトルは「人間効果」)
1959年、「アルジャーノンに花束を」は
当初中編として出版
これがたちまちベストセラーとなります
一躍有名になったダニエル・キイスですが、
チャーリィが頭から離れず中編から長編に
改作することになります(ダニエル・キイス談)
なお、あらすじと結末は中編・長編とも
変わっていません
中編はチャーリィが工場で働いている設定で
心理描写が今より少なく
長編に読み慣れていると
すぐ話が展開してしまう印象です(中編も日本語訳されたものが出版されています気になった方はどうぞ)
1966年に改作された長編が出版
これが現在私たちの知っている
「アルジャーノンに花束を」になります。
さて、ここまでの話だと
アメリカの時代背景の話なんて
わざわざしなくていいんじゃないの?
と思いますよね。
そんなことはありません‼︎
しばしおつきあいくださいませ
・「アルジャーノン」が出版された当時のアメリカの時代背景ついて
1950年代に入ると、アメリカでは
以下のことが社会問題となります
・黒人の人種差別
・ロボトミー手術
・障害者の差別/隔離
順に説明します。
・黒人の人種差別
1950年代に入った頃から
黒人への人種差別反対運動が起こります
公民権運動と呼ばれるものです
黒人が憲法で認められた
個人の権利の保障を訴えました。
1863年リンカーン大統領の
奴隷解放宣言により奴隷制度は
廃止となりましたが、黒人への差別は
その後も続いていたのです(参考:ブリタニカ国際大百科事典小項目事典)
なお1964年に公民権法が成立
人種、民族、皮膚の色、宗教あるいは出身国を理由とする差別の禁止が明示されました(参考:ブリタニカ国際大百科事典小項目事典)
・ロボトミー手術
ロボトミー手術とは
脳葉(大脳)の神経回路を脳のほかの部分から切り離す外科手術(引用:ブリタニカ国際大百科事典小項目事典)
を言います。
なぜ外科手術か?というと
1950年代半ばまで精神科での
投薬治療が確立しておらず
主な治療法が脳外科手術しかなかったのですね
当時は画期的な治療法として
世界中で流行しましたが
実際ロボトミー手術は失敗も多く、
治療を疑問視する声が相次いでいました
(実はチャーリィが手術を受けるアイディアはロボトミー手術を参考にしています)
・障害者の差別/隔離
当時、障害者に対しての理解は乏しく
今以上に生きづらい社会でした
「アルジャーノン」の中でも障害者に対して
バカにする描写がいくつもありましたね
障害者は大規模な施設に入るのが一般的で
養護学校も一度入ると最後、出ることなく
生涯を終える方がほとんどでした
そんな渦中のなか
1961年、ジョン・F・ケネディが
アメリカ第35代大統領に就任
同年、彼は黒人に公民権を認め
差別撤廃に乗り出す方針を示します
1963年にはケネディ教書(精神病及び精神薄弱に関する大統領教書)を発表
施設へ隔離するのでなく、
脱入院化・脱施設化へという
今では当たり前となった方針が
ここで打ち出されます
(裏ではケネディ大統領の妹が知的障害を恥じた父親によって本人の同意なしにロボトミー手術を受けされられ失敗→父により施設送りにされたことが明るみになったこともあります)
国のトップが社会的弱者に対して
光を当てたのですね
残念ながら
1963年11月にケネディ大統領暗殺
本人の手で政策を実現することは
ありませんでしたが、
それまでの
社会の流れを変えた人物であるのは
間違いありません
アルジャーノンに限らず本には
その当時の時代背景が見え隠れしています
本の時代背景や作者について知ると
読書はもっと豊かになります
あなたの読書を更に豊かにする
きっかけとなりましたら幸いです